砂肝で家は建てられない

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ネガティブハーモニーまとめ

ただの覚え書きです

【概要】 ・ある1つの調があったとして、ルートの短3度上と長3度上の間に軸を想定する。 CメジャーならEbとEの間。 ・その軸を中心としてコードの各構成音を軸の反対側に移動させる。 Cメジャーなら…G ↔︎ C、F ↔︎ D、Ab ↔︎ B、Bb ↔︎ Aのように。 ・全ての構成音を入れ替え、その和音を元の和音の代用として使う。

【例】 ・Cメジャースケール上のダイアトニックコードなら… Cmaj ↔︎ Cm Dm ↔︎ Bbmaj Em ↔︎ Abmaj Fmaj ↔︎ Gm Gmaj ↔︎ Fm Am ↔︎ Ebmaj Bmb5 ↔︎ Dmb5 ※入れ替え後のスケール構成音はCナチュラルマイナーのもの。つまり各種メジャースケール、ナチュラルマイナースケールの各構成音を軸で反転させると同主調が形成される。

・4和音では… Cmaj7 ↔︎ Cmb6 / Abmaj7 Dm7 ↔︎ Bb6 / Gm7 Em7 ↔︎ Ab6 / Fm7 Fmaj7 ↔︎ Gmb6 / Ebmaj7 G7 ↔︎ Fm6 / Dm7b5 Am7 ↔︎ Eb6 / Cm7 Bm7b5 ↔︎ Dmb5b6 / Bb7

・度数表記なら…(長調 ↔︎ 短調の表記) Ⅰmaj ↔︎ Ⅰm Ⅱm ↔︎ bⅦmaj Ⅲm ↔︎ bⅥmaj Ⅳmaj ↔︎ Ⅴm Ⅴmaj ↔︎ Ⅳm Ⅵm ↔︎ bⅢmaj Ⅶmb5 ↔︎ Ⅱmb5

Ⅰmaj7 ↔︎ Ⅰmb6 / bⅥmaj7 Ⅱm7 ↔︎ bⅦ6 / Ⅴm7 Ⅲm7 ↔︎ bⅥ6 / Ⅳm7 Ⅳmaj7 ↔︎ Ⅴmb6 / bⅢmaj7 Ⅴ7 ↔︎ Ⅳm6 / Ⅱm7b5 Ⅵm7 ↔︎ bⅢ6 / Ⅰm7 Ⅶm7b5 ↔︎ Ⅱmb5b6 / bⅦ7

短調の5度セブンスを長調に反転した時 Ⅱm7b5 ← Ⅴ7

【原理】 なんでこんな理屈が成り立つのかは分からない。ただ理屈が分からなくても、YouTubeに溢れている解説動画のおかげで誰でもネガティブハーモニーを使えるようになっているのは便利。その筋の人には怒られそうだけど。 天才ジェイコブコリアーもこの理論に関して何度も言及しているけど、彼には一体何が見えているんだろう… ベーシストの濱瀬元彦さんが何かの本で、下方倍音列とかいう実際には存在しない倍音に関して述べていた気がするけど、それと似た考え方なのかな?そもそも濱瀬さんの理論が難しくて理解出来なかったのでよく分からないけど。

Freedom Jazz Dance (Eddie Harris)

Miles Smiles

Miles Smiles

耳がびっくりしたメカニカルな曲

多分この曲はマイルスデイヴィスの演奏で有名になったんじゃないかと思う。作曲者はサックス奏者のエディハリス。 独特のメカニカルな雰囲気のメロディで、しかもフレーズの始まる場所が独特なので、初めて聴いた時は何が起こってるのかよく分からなくて衝撃を受けた。もしこの曲を聴いた事がない人がいたら、予備知識なしで一度聴いてみてから下に貼った楽譜を見て欲しい。


Miles Davis - Freedom Jazz Dance

↑曲の動画

f:id:SuNaGiMo:20190530140241p:plain

↑実際の楽譜ではこんな感じ。 譜面で見るとなんてことはないけれど、予備知識なしでは何がなんだか分からないと思う。

初めて聴いた時の驚き

楽譜を見たおかげで曲の構造はある程度理解できたけど、初めて聴いた時の新鮮な驚きとか、何が起こってるか分からないゾクゾク感みたいなものを、この曲ではもう感じる事が出来ないんだなと思うと少し寂しい気持ちにもなった。 構造を分析したり、何度も同じ曲を聴いたりして、その曲の変わったフレーズや転調に慣れてしまうことで、初めて聴いた時の衝撃が薄れてしまうというのはとても残念なことだと思う。 だからこそ新しい刺激を求めてみんな色々な音楽や芸術作品に触れようとするんだろうけど。

耳がびっくりした曲その2

初めて聴いた時に転調の多さや調性の曖昧さが衝撃的だった曲を1つだけ貼ります。ACIDMANの名曲, “World Symphony”です。


ACIDMAN - World Symphony

よくまあこんな曲書けるよなという風には今でも思うけど、やっぱり曲の流れや調性の曖昧さに関しては初めて聴いた時ほどの衝撃はなくなっている。

知らないという事の強み

音楽に限らず、芸術関連の分野では「知らない」という事が必ずしもマイナスに働かない気がする。 この曲を聴いた時みたいな、「知らないがゆえに感じる事ができる新鮮な驚き」のようなものは絶対に存在する。 「感性が殺されるから音楽理論を学ばない」とかいう人を時々見かけるが、あながち間違いとも言い切れないとは思う。 ただ既存の音楽理論で殺されてしまうような並外れた感性の持ち主なんてそうそういないはずだけど…

Miles Smiles

Miles Smiles

and world

and world

友とコーヒーと嘘と胃袋 (Mr. Children)

Q

Q

イロモノ曲代表

ミスチル中期の曲。9枚目のアルバム"Q"に収録。
多分アルバムの中、というかミスチルの曲全体の中でもイロモノ扱いを受けている曲かと。まあ実際イロモノだとは思う。
大学時代の友人に教えてもらった曲。そいつはベーシストなんだけど、あまりにベーシストをこじらせてしまった結果、歌詞よりも先にベースラインが耳に入ってくるようになってしまったらしい。曲中の気持ちいいベースラインを聴くたびに軽く発狂してしまう悲しい変態でもある。
 

色々と異質な曲

この曲のことを語る上で外せないのは中盤の桜井さんの謎の語りパートだと思うけど、それに関してはネットのいろいろな場所で語られていると思うので省略します。

歌詞付きの動画を上げてくれた方がいたのでペトり。改めて語りパートの内容を文字付きで見るとジワジワ来る。


友とコーヒーと嘘と胃袋 Mr.Children

友人にこの曲を聴かされた時、「とりあえずベースラインがやばいから聴け!」と言われたのを覚えている。聴いてみたら確かにベースラインは格好いいんだが歌詞とか語りとか他に突っ込むべきところが色々あるだろと…

ただ曲頭から入ってくるベースラインは確かに印象的。間奏の語り部分を除いて、基本的に曲中ずっとこの独特のベースラインが流れている。勿論コードによって音選びは変わるけどリズムの大枠は全く変わらない。

 

分析

コード進行は大まかには以下の通り。

●イントロ:

|| CMaj7/G | D7b9/G | GMaj9 | % || 

(CMaj7/Gの所はCmMaj7/Gでも良い感じになりそう)

●Aメロ(?):

|| Gmaj7 | % | Em7 | % | Am7 | % | D7sus4 | D7 ||

(2回目のAメロはベースラインがGのまま固定) 

●間奏:

Bbm7-Eb7、Cm7-F7を何度か繰り返し。最後はDm7→E7sus4→E7→転調後のAメロに

●転調後のAメロ(?):

|| Amaj7 | % | F#m7 | % | Bm7 | % | E7sus4 | E7 ||→繰り返しでフェードアウト

 

弾かないベースライン

上でも言ったけど、この曲はベースラインの存在感がかなり強い。

コードが変わっている中でベースラインが全く変わらない、ペダルポイントと言われる手法を効果的に使っている所もある(2回目のAメロ)。

ベースが全く弾かないことで、逆にベースが入ってきたときの存在感を引き立たせるようなこともしていたりする(1回目のAメロ、転調後のAメロ)。この「弾かないことでベースを引き立たせる」方法は初めて聴いたときすごく衝撃的だった。なんというか逆転の発想というか…。

個人的には楽器を弾くときにあまり音数を多くしたくないという考え方を持っているんだけど、その考え方はこの時の体験が元になっているのかな、と改めて思う。

 

ちなみに、「弾かないベースライン」の例をもう1つだけ挙げるとすると、ZAZEN BOYSの"Honnoji"かなと思う。


ZAZEN BOYS Honnoji LIVE

開始から1分ほど吉田一郎(ベーシスト)は全くベースを弾いてない。0:40辺りではスティック持ってなんかシンバル叩いてる。1:15でようやくベースラインが入ってきて、ドラムパターンと噛み合う時のゾクゾク感がたまらない。

この動画はカメラワークも素晴らしい。歌ってる向井秀徳とベースを弾く吉田一郎の手に交互にフォーカスが当たるシーンは何度見ても格好いい。

 

Q

Q

 
ZAZEN BOYS4

ZAZEN BOYS4

 

 

 

Talassa (ペトロールズ)

Renaissance

Renaissance

 

初めて聴いた時はそこまでハマらなかったバンド

日本のオシャレロックバンド代表(?)であるペトロールズの曲。アルバム”Renaissance”収録。

もともと大学の後輩から教えてもらったバンドだったけど、最初はそこまで激ハマりしなかった。

初めて聴いたのは確か”ホロウェイ”だったかと思うけど、その時は「ふーん」位にしか思ってなかった。後々有名になってくるにつれて、自分も改めてハマったという感じ。

後輩の耳の早さに感心したし、なんというか自分のミーハーさが少し恥ずかしかった。

周りに影響されずに良いものを素直に良いと感じるのは本当に難しい。そして自分が今良いと思っているものが、周りに流されてそう感じているだけなのかを判断するのはもっと難しい気がする。

 

分析


PETROLZ Talassa

この曲は1種類のコード進行のループで大部分が出来ている。

曲の中盤くらいに一瞬だけドラマチックに和音が展開する場所(動画では1:36~2:14)があって、その後はまたループに戻って終了する。

あえて言うなら和音がドラマチックに動く場所がサビなんだろうけど、この曲でAメロとかサビとかをうんぬん言うのもアホらしい気がする。

 

コード進行は大まかには以下の通り。%は前の小節と同じコードを表している。

曲中の大部分:

|| Abm9 | % | B7 | % | C#m7 | % | DMaj7 | % ||

コードが動く部分:

|| GbMaj7 Cm7b5 | BMaj7#11 E7 | Bbm Ebm7 | Abm9 DMaj7 ||

(E7の後ろにB7#11的な和音が一瞬入ってる気も?音感が曖昧なのでよく分からん)

 

コードが動く部分での進行が本当に素晴らしい。

増4度のm7b5(曲中のCm7b5)から4度メジャー(BMaj7)に行く手法はよく使われるけど、使われるタイミングのせいなのか完全に意表を突かれた感じがした。

あとペトロールズは短6度のメジャーコード(DMaj7)を多用する印象。

 

コーラスを多用するスタイル

この人たちみたいにコーラスを多用するバンドが本当に好き。tricotとかもサウンドの特徴として変拍子がよく取り上げられるけど、個人的にはコーラスの美しさがグッとくるポイント。

バンドの演奏でコーラスをしなければいけなくなった時に、もし楽器とコーラスの両立がどうしても難しそうなら、よっぽど耳に残るフレーズでない限りはコーラスを優先している。

多分その方がバンドの演奏としてまとまる気がするんだけどどうなんだろう。

 

Renaissance

Renaissance

 

 

飛光 (ACIDMAN)

Loop

Loop

ACIDMANとは

ACIDMAN初期の名曲。メジャー2ndアルバム"Loop"収録。

ACIDMANを知らない人のために伝えておくと、ギター&ボーカルの大木伸夫氏、ベース&アジテイター(観客の煽り役)の佐藤雅俊氏、ドラム&コーラスの浦山一悟氏によるスリーピースバンド。

ベーシストの佐藤雅俊氏(通称サトマ)が好きすぎて家で動き方をこっそり練習するくらいにはファンです。

この人はスリーピースバンドのベーシストとしての一つの理想型だと思う。ベースフレーズの選び方や音が本当に素晴らしいし、ライブ中の動き方もかっこよくて視覚的にも映える。本当に天才だと思う。

 

ACIDMANを知ったきっかけ

初めてACIDMANを知ったのはディズニーのコンピレーションを友達から聴かされた時だったけど、そのとき流れていた"Colors of the wind”には本当に衝撃を受けた。

吐息多めに感じる歌声、めっちゃお洒落な和音、歌いまくるベース、腰の据わった独特のノリがあるドラムにいっぺんで虜になった。

その後家に帰ってすぐYouTubeを漁って聴いたのが”飛光”という曲。


ACIDMAN - 飛光

 

理系の香りあふれる名曲

まずイントロからもうかっこいい。ゴリゴリのベースが爆音で主張してくる。歌詞が意味不明でかっこいい。所々に歌詞が映し出されるPVがかっこいい。サトマ氏の服はお言葉ながらダサい。

ちなみにドラムの一悟氏は割と後ろノリのタイプみたいで、本人もそれに言及していたように思う(twitterとかで自分のノリを気にしているみたいなこと言ってなかったっけ?)。ただこの独特のノリが大好きな人は僕含め大量にいるはず。この曲もかなりスピード感のある曲なんだけど、そのスピード感に関しては確かにベースが先導しているように思う。別にドラムが悪いと言ってるわけではなくて。

 

緊張感のあるサビ

ただなんといってもこの曲の一番の魅力はサビだと思う。

コード進行としてはおそらくAbMaj7→Bb7/Ab→Gm7→Cmといった単純なものだけど、この部分はいつ聴いても焦燥感や緊張感みたいなものを感じてグッとくる。

叫ぶようなボーカルも好きなんだけど、僕がこの曲で一番好きなのがサビになった瞬間に急に高音域に上がってくるベース。

この上ずってくるベースのおかげで曲の緊張感・焦燥感がグッと増す。この盛り上がるんだけど緊張感が増すそのバランスが絶妙で、多分ここでベースの音が1オクターブ低かったらこの曲はここまで名曲になっていない気がする

 

他にも名曲たる理由があるんだろうけど

この緊張感というか格好良さには声の良さやメロディーの選び方もきっと関与しているんだろうけど、そこに関しては理由をはっきりとは説明できない。

メロディーとベースの関係が○度だと~みたいなのがあるのかも知れないけど、楽典をしっかりと学んでいないからよく分からない。

まあそんな方法論があったら世の中の音楽家たちは皆使いまくってるだろうし、結局良いメロディーに関しては天才のひらめきか地道な試行錯誤しかないんだろうなあ。

なぜこの曲が名曲と言われるのか、名曲だと思ったのか、この文章を見た人の意見を是非教えて欲しいです。

 

Loop

Loop

 

 

Stage of the ground (BUMP OF CHICKEN)

jupiter

jupiter

バンプ初期の名曲

3rdアルバム"Jupiter"収録。バンプ初期の壮大な曲調の名曲。

楽器だけの演奏になる時間が比較的長く、いろいろなアレンジがされていることが多いように思うけど、生BUMPを見たのはフェスに行った数回だけなのであんまりよく分からない。友人の子供が生まれたことを記念して作られた曲だっけ。

曲を取り上げているけど、個人的にBUMPの熱烈なファンというわけではない。フラッシュ動画をきっかけに存在を知って、BUMP好きの友人にいろいろ曲を教えてもらったり、カラオケで友人が歌ってた曲をメモしてたりした程度にしか曲は知らない。

要はにわか。

 

全くスネアを叩かないドラムパターン

この曲を聴いて最初に耳に入ったのがドラムパターンだった。全くスネアドラムを叩かない。ひたすらハイタム・ロータムだけでドンドコドンドコしながらリズムを作っていくというのは、ロックバンドではあまり聴いたことがなくとても新鮮だった。

イントロもギターの分散和音から入るパターンとドラムからスタートするパターンがあったように思うけど、僕は個人的にはドラムパターンからスタートする方が好き。

ドラムが全くスネアを叩かないため分かりやすく盛り上がる訳ではないので、曲自体は割と淡々と進んでいく。そしてベースは時々地味に荒ぶっている。

 

2番サビが終了してCメロが終わったあたり、ギターソロの前にドラムフィルが入ってくるが、ここで初めてスネアドラムが叩かれる。本当に一瞬「タッタタ!」と入ったかと思ったら、またさっきまでのドラムパターンに戻る。

その後もギターソロ、一瞬静かになった後に盛り上がるラスサビまで例のドラムパターンは続く。

 

最後の最後に入ってくるスネアドラム

ただ曲の最後の最後、「Stage of the ground, yeah!」と歌が入った瞬間に、ドラムパターンがスネアドラム入りのものに変化する。

あれほど執拗に叩かれなかったスネアドラムがアンサンブルの中に入ってきたおかげで、景色がパッと開けるというか、ぐっと加速するというか、そんな感じの爽快感を味わった結果脳から変な液体が出てくる。ほんと気持ちいい。

静かに溜めつづけたエネルギーが一気に放出されていく感じ。もう最高。

ついでみたいに言うけどメンバーが皆でラララって歌ってるのも合わさってとても良い。

こうやって全体を聴き直してみると、Cメロ終わりのスネアを使ったフィルも、この開放感を味わうための伏線なんじゃないかと思うくらい。考えすぎかな。

このドラムパターンは時間にしたら20秒も続かなくて、その後はすぐに元々のドンドコパターンに戻ってしまう。そしてイントロのパターンに戻ってそのまま淡々と曲は終了する。

 

スネアドラムの一打の魅力

溜めに溜めた後のスネアドラムの一打には強い力があると思う。BUMPの例えは極端過ぎた気もするけどなんというか場を引き締める効果というか…

ジャズドラムの人だって雰囲気を変えるため(ラテンから4ビートにチェンジする時とか)に小節の4拍目にオープンリムショットを入れたりしてる気がするし。

 

おまけ

他にもう1つ極端すぎる例を出すと、キース・ジャレットの"Death and the flower"(邦題:生と死の幻想)とか。


Death And The Flower

最初の6分間ぐらいは民族音楽みたいな感じでパーカッションとかが打ち鳴らされてて、そこからやっとメロディーらしいものが提示される。

ドラムがしっかり8ビートのパターンを刻み始めるのは9:40位からなんだけど、9:47時点で入ってくるポール・モチアンのスネアドラムの1打が本当に好き。ようやく全員が揃っでバンドが加速していく感じが出ているように思う。

曲全体で23分位あるのであんまり頻繁に聴きたいものじゃないけど。てかこの文章を書くに当たって6年ぶりくらいに聴いた。

暇で暇で仕方ない上に元気がありあまっている人にだけおすすめする名演(失礼)。

 

 

jupiter

jupiter

 
生と死の幻想

生と死の幻想

 

 

 

三浦しをん「舟を編む」

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)

三浦しをんという作家

三浦しをんの作品を読むのはこれが3作目。

今まで読んだ本が「光」「格闘するものに◯」だったので、この人がどういう作家なのかよく分かっていなかったけど、他の人の話を聞く限り「光」が例外的な作風で、基本的にはもっと暖かだったりユーモラスだったりする作風らしい。

 

※「光」…ある島で起きた大災害での数少ない生き残りである3人の子供が成長し、心に闇を抱えながら生活するなんともドロドロしたお話。

※「格闘するものに◯」…就活中の女子大生の日常を綴った話。名前こそ出さないがある出版社の事をめっちゃけなしてて面白い。作者の実体験も多分に入ってるんじゃないかと。

 

不器用ながらも懸命に辞書に取り組む登場人物たち

本屋大賞を受賞した作品で、辞書をテーマとした物語なんて本当に面白いのかという疑問はあったけどとても楽しめた。

ある出版社のなかの辞書を作成する部門の中のお話で、部署文字に対する鋭い感性を持ちながら、不器用にしか生きられない主人公の馬締を中心として物語が進む。

出版社本部からの様々な要求をこなすために、辞書の話がなかなか進まずに、途中で時間が10年以上経過するシーンがあるが、その時間の経過の中でも辞書に対する意欲を全く失わない登場人物たちにグッとくる。

 

言葉が思考を型作る

本の中に「言葉は記憶そのもの」というような文章が出てくるけれど、この文章を読んだ時にいくつか思い出すことがあった。

1つは、小さい頃に親からもらった「色の本」的なものを読んだ時のことで、イヌイットには雪の色を表す様々な言葉がある、というのをその本で知った記憶がある。

僕らには「白」という言葉しかないせいで、イヌイットの人たちには感じることのできる雪の色の違いを感じることが出来ないという事が子供心にとても印象的で、「言葉が思考を規定する」ということを実感したのはその時が初めてだった。

 

もう1つ思い出すのがジョージ・オーウェルの「1984年」。

こちらは徹底した言論統制、思考統制のために、政府が国民のボキャブラリーを徐々に減らし、思考を単純化させていくようなお話(単純化された言語のことを作中で「ニュースピーク」と呼んでいる)。

本の最後に「ニュースピークの諸原理」という項目があって、いかに国民の思考を単純化させていくかの方法論がとても興味深かった。

 

印象に残った文章

・なにかに本気で心を傾けたら、期待値が高くなるのは当然だ。愛する相手からの反応を、なにも期待しないひとがいないように。

・「なに、下駄箱は死語か?」(登場人物の1人、荒木の言葉。個人的にも下駄箱という単語が死語扱いされてて驚いた)

・「記憶とは言葉なのだそうです。香りや味や音をきっかけに、古い記憶が呼び起こされることがありますが、それはすなわち、曖昧なまま眠っていたものを言語化するということです」

・「言葉は、言葉を生み出す心は、権威や権力とはまったく無縁な、自由なものなのです。また、そうであらねばならない」

・生命活動が終わっても、肉体が灰となっても。物理的な死を超えてなお、魂は生き続けることがある(以下続く)

 

感想

ドラマチックな出来事があるわけではなく淡々と物語は進んでいく。

四版作成時のトラブルを乗り越え辞書が完成した際は、「あれ、もう終わり?」という感がなくはなかった。ただその淡々と進む物語の中での登場人物たちの考え方にはとても胸を打たれた。

読みやすい文章なので興味がある方はぜひ。

 

 

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)